宮古島社員旅行【5】(2003/07/21)
通り池:
次に向かったのは通り池。ここも昨日も訪ねているが、伊良部・下地島観光において外すことのできない場所なので再訪。
駐車場から通り池まで写真のような遊歩道があるので、迷わずに池まで行くことが出来るが、途中屋根も何もないので陽射しが強烈である。
地面にぽっかりと開いた穴が2つ。その穴になみなみと水を湛えている。
よく見ると、湖岸がかなりオーバーハングしていて、万一転落したらまず地上には戻って来られなさそうな恐ろしい形状をしている。
ここは元々海蝕洞だったところが、海蝕の進行により天井が崩落して地上に姿を現したものなのだそうだ。
つまり、この池の湖底は海と繋がっている。故に通り池という名前なのだ。
上級者向けのダイビングツアーでは、その洞窟を抜けてここまでダイビングしてくるものがあるそうで、時たま浮上してくる彼らの姿に遭遇することがあるそうだ。
彼らの視線でこの池を眺めたら、地上から見るのとはだいぶ違った風景が見えるのだろう。
遊歩道はまだ先に続いていて、さらに歩いていくと突き当りにもう一つ、通り池より一回り小さいナベ底と呼ばれる池がある。
手前側はオーバーハングしていないので、こちらは万一転落しても助かる可能性がありそうな感じにも見えるが、通り池に比べてはるかに深い所に水面があるので、まぁ、そう見える気がするだけだろう。
帰宅後、Googleの航空写真でこの辺りを見てみたら、他にも観光地化されていない池が点々とあるようだ。
付近には入り組んだ小さな入り江がいくつも存在している。湾口にがれきのように転がった岩が見えたりするので、これらもかつては通り池のような海蝕洞だったのかもしれない。
海蝕洞が崩れた時、海岸まで崩れたら入り江になって、一部だけに留まったら池、という感じで、生い立ちは同じような物なのかもしれない。
直射日光の下にずっといると、頭がボーっとしてくる。傍らのあずまやに逃げ込むようにして小休止。
日陰に入ると、折から吹き付ける風によって汗が引いていく。南国における日陰の重要さを改めて認識。
東屋から何気なく写した写真に帯岩が写っていることに帰宅してから気が付いた。
解像度の低い写真なので分かりづらいと思うが、写真右半分に浮かぶ雲が右で途切れる辺りから真下に視線を送るとクジラのような岩がぽつんと見えると思う。
こんな近くにあるとは思いもしなかった。もう少しちゃんとガイドされてたら見に行ったのになぁ。。。
下地島空港のタッチアンドゴー:
ダラダラと日陰の涼しさを堪能していると、やっぱり女子共は職場の愚痴を言い始める。適当に相槌なんかを打っていたら、、、
彼方の方からジェットエンジンの音が聞こえてきた。音のする方へ視線を送ると、飛行機が徐々に高度を下げているのが見えた。
それをずっと目で追っていると、島へと着陸してそのまま飛び立っていった。
あれはタッチアンドゴーではないか!?
慌ててカメラを起動してやみくもに写したらどうにかこんな写真が撮れた。
まさかこんな場所で眺めることになるとは。。。
事前に分かっていれば空港に行ったのに残念、、、なんて思いつつ飛び去って行く飛行機を追いかけていたら、その飛行機はほどなく向きを変えて元来た方向へ戻ってくのが見えた。
やがて再び機種を下げて着陸のような態勢を取り始めた。
お、タッチアンドゴーの練習って複数回やるのか!!
それならこの機会を見逃すわけにはいかない。慌てて一同に緊急事態発生の旨を伝えて、急遽空港の方へ移動した。
チラチラと目線を送って飛行機の姿を確認していると、更に2度、3度とタッチアンドゴーを繰り返していた。
はやる気持ちを抑えて向かったのは、あそこである。訓練が終わる前にどうにかたどり着きたい。
やっぱりここでしょ。
果たしてその場でカメラを構えて5分ほど待っていると、空の向こうから何回目かの着陸態勢に入った飛行機がこちらへ向かってくるのが見えた。
Good luck!!
ついに2日目にしてその瞬間をカメラに捉えることが出来た。
予定変更して再訪してよかった。
願わくば、この後、着陸、滑走路を滑走、再離陸の写真を撮りたいところだったが、撮影したのはこの1枚のみ。しかも解像度はVGA。
デジカメのメモリが心もとなさ過ぎて、残量の都合で1枚しか撮影する余裕がなかったのだ。。。
まぁ、雰囲気が分かる写真が撮れたから良しとしよう。
ちなみに、帰宅後にネットをチェックしていたら、タッチアンドゴーのスケジュールが記載されたサイトを見つけた。これを最初に見てればもっと効率よく回れたのになぁ。。。
それはさておき、念願のタッチアンドゴーを写真に納めることが出来て大満足。次の観光スポットへと進むことに。
次に向かったのは黒浜御嶽。案の定、一行のテンションは微妙な感じだったので、ここはほどほどに、目の前の海岸に降りてみた。
ここもきれいなビーチである。
なんかやたらと小さな(1cm未満)の巻貝の貝殻が落ちている。東京湾辺りで目にするのは大概2枚貝ばかりなので、こんな小さくても巻貝の貝殻というだけでテンションが上がる。
めいめい落ちている貝殻集めに精を出したら、お腹が空いてきた。気が付けば昼を回っている。
ということで、この辺でお昼に。向かったのは、伊良部集落にあるむつ美という食堂だ。
ガイドブックによると、この店の主人は以前下地島空港の食堂で料理を作られていた方ということなので、味は期待できそうだ。
島の食堂は、数は多くないがいくつかある。その中でこの店を選んだのは、一番気軽に入りやすそうな雰囲気だったからだが、そういう気分を一行に悟られないように、いかにも最初からここへ来るつもりだったんだ、と言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら暖簾をくぐった。見栄っ張りなものであるw
料理は島そばを選んだ。味は普通にうまかった。
フナウサギバナタにいたオジイ:
食事を済ませたらぼちぼち帰還に向けた集合のことを考えなければならない時間が近づいてきた。集合場所はホテルなので、時間に間に合うように逆算するとぼちぼち船に乗らないとならない時間だ。船便の時間は14時台で、残された時間はあと1時間ほど。
ということで、あと1か所ほど観光して帰ろう。最後に向かったのはフナウサギバナタ。
ここも昨日のエントリでは軽く触れるにとどめておいた場所である。
駐車場に車を停め、展望台の方へ歩き出そうとしたその時、向こうの方から真っ黒に日焼けした小さいオジイがこちらに向かって歩いてきた。
なんか薄汚れたボロボロのシャツを着ていてただならぬ雰囲気を醸し出してる。
自分は無視してやり過ごそうと思っていたのだが、カミさんがそのオジイに興味を示した。
オジイは島訛りの強い言葉に何かしら言っている。聞き取れる範囲で聞いていると、
- あんたらはどこから来たの?
- オジイは昔東京の京浜東北線の沿線にいたことがある。
- 今はパッションフルーツを栽培している
- よかったら食べに来るか?
と言ったような感じのことを話していた。
話はともかく、このオジイ、さっきドブ川で水浴びでもしてきたの?というほど強烈な臭いを発していた。あまり風呂に入っていないのだろうか。
パッションフルーツを頂きに行くのは面白そうだと思ったが、どうにも臭いが受け付けない。。。なので話はほどほどにあしらってその場を離れようと思ったのだが、やっぱりカミさんがみんなと顔を合わせて「行く?」と小声で聞いてくる。
他の2人はどうしようか考えあぐねているようで、うーん、と言ったきり黙ってしまったが、なんかこのままついて行くのは個人的に嫌な予感がする。。。
オジイがパッションフルーツをふるまったあと、じゃあね、と言って大人しく帰らせてくれる気がしない。船の時間も迫っているので、万一船に乗り遅れたら一大事である。
ということで、やめとこう、と強く説得して諦めてもらった。
オジイは残念そうな顔をしていたが、まぁ、しょうがない。
ということで改めてフナウサギバナタへ。
カタカナで書くとどこの言葉だか分からなくなりそうだが、「フナウサギ」とは「船を見送る」、「バナタ」は「崖」を意味する宮古方言だそうで、兎は無関係。
また、古くは島の木材をここから海に落として、帆船に乗せて運んだことから「木(き)ーうるすバナタ」(「木を降ろす崖」と言う意味?)という別名もあると、解説に書かれていた。
後ろ姿だけで恐縮だが、この広場には町の鳥に指定されているサシバという鳥をモチーフにした展望台があった。
さて、ここで少し方言の話をさせてくれ。
サバ沖井戸の所でも少し触れているが、沖縄県の方言は島言葉(すまくとぅば)と呼ばれ、本土の人がこれらの言葉に触れても、殆ど意味が理解できないほどの独特な言い回しをする。
そんな島言葉を島言葉たらしめている特徴の一つに母音の少なさがある。
島言葉の母音は基本的に「あ、い、う」の3音しかない。ただし本土から伝わった言葉も多く、そうした言葉は島言葉に置き換えられる際に、「え」は「い」に、「お」は「う」にそれぞれ置き換えられて取り込まれた(現代では標準語そのままの発音もなされている)。
例えば、きーうるすバナタの、「うるす」は「おろす」が語源となる。
宮古島の方言であるミャークフツはさらに独特だ。なんと言っても特徴的なのが「ん」から始まる単語(例:「んみゃーち(いらっしゃい、の意)」)があったり、「す」や「き」や「り」に鼻濁音が付いたりする発音があったりするのだ。
す、とか、き、とか、り、に鼻濁音(「ぱ」のように丸が付く発音)なんて想像もつかない。
前出の下地勇氏のアルバムを買うと、歌詞カードにこうした発音が描かれている。
そして彼の歌でその発音を聞くことが出来る。
うまく表現できるか自信がないが、それによると「す゜」は「ズ」と「ツ」の間のような発音(「ズ」の音がやや乾いた響きになる)、「き゜」は「クス」と「ツ」の間のような発音(英語のxを発音する時に似ている感じ?)、「り゜」は「イウ」と「イル」の中間のような発音になるらしい。
と言っても、それが島の話者にどのくらい共通するものなのか、現地ではこうした表記を日常的に行っていたものなのかまではよく分かっていない。下地勇氏と会話する機会があったら聞いてみたいものである。
余談だが、彼の曲はカラオケにも入っている。当然、上記鼻濁音もテロップに表記しなければならないわけだが、元々日本語入力用の文字として登録されていないので、その表現に苦労している様子が画面から伝わってくる。
そして、それを歌って見せると、同席する人がみな目を丸くするのが面白い。島出身の人間でもないのにねw
ちなみに、下地勇氏はネイティブに島言葉を話すことが出来る貴重な話者でもある。ぜひ聞いてみてほしい。
更に余談、自分は高校時代、放送部に在籍していた。放送部に入ったからと言ってアナウンスや朗読がやりたかったわけではないのだが、部活動のメニューとしてはあったので、発声練習なんかもやった。
で、その時に鼻濁音の練習として「か゜」、「き゜」、「く゜」、「け゜」、「こ゜」という発音練習をさせられている。
「か゜」の発音は「が」とは異なり、「nga(鼻にかける感じ)」のように発音する。
こうして書くと耳慣れない発音のように思うが、実は多くの日本人は無意識にこれを使い分けているのだ。
例えば「がっこう」は「gakkou」と発音するが、「しょうがっこう」だったら「syou-ngakkou」のように「が」の音が少し鼻に抜けた感じなると思う。
現在はこうした区別はだんだんと廃れてきているらしいのだが、自分が高校生の頃はこの辺の発音がアナウンスの世界では厳密に分けられていて、練習させられたという次第。
自分、やらかす:
長々余談を続けてしまったので、この辺で旅の話に戻りたい。
とりあえずフナウサギバナダを見学して港に戻る。あと15分くらいで船の時間だ。
だが、港にフェリーが停まっていない。乗船待ちの車も見当たらない。まさか、乗り遅れた!?
慌てて時刻表を再確認すると、船の時間は間違っていなかったが、自分が乗ろうと思っていた便はカーフェリーではないことを見落としていた。
宮古島と伊良部島を結ぶフェリーはカーフェリーと人のみが乗船できるフェリーの2種類が運行されてたのだった。
次のカーフェリーは、15:20。。。どう頑張っても集合に間に合わない。やべぇ。。。
女子3人を引き連れて集合に間に合わなかったなんて、周りから何を言われるか分からない。どうするか、、、頭をフル回転させて考える。
同行者に確認すると、ラッキーなことに全員荷物は全て車に積み込んでいてホテル置き忘れているものはないとのこと。
だったら、空港集合なら間に合いそうだ。
じゃあなんと言い訳するか。しばし思案したあと、幹事の携帯に電話。
「すみません。今、伊良部島に来ているんですが、こっちの島は風が強くて船が遅れてて。ホテルの集合時間までに戻れなくなってしまったので、空港に直接集合させてください。ホテルに荷物はありません。」
どうだ・・・嘘くさいか。。。?
いや、言ったもん勝ちである。同行者にきっちりと口裏合わせをしておくことも忘れずに。
電話口の幹事は呆れていたが伊良部島の存在は良く知らないようで、空港集合は間に合わせてね、と釘を刺されたが、了承してもらった。
それと、レンタカー会社にも空港乗り捨て旨の連絡を入ておく。
よし、これで隠ぺい工作はバッチリである。
とりあえず致命的な事態に陥らずに済みそうだ。
次の便までまた小一時間ほど余裕が出来た。まだ一抹の不安は拭えずにいたが、どうせどうあがいてもここまで来たらなるようにしかならない。ぼんやりしててもしょうがないので、港の周辺を散策してみることにした。
港への通りの途中のスーパーでアイスを買ったり、土産物屋らしき店に入ってみたら商品が殆ど置かれていなくて面食らったり。
みんなでワイワイやっていると、案外気が紛れた。
そして、待ちに待ったカーフェリーがようやく入港してきた。そそくさと乗り込み再び宮古島へ。
そこから空港まで急いで向かって、集合時間には無事間に合った。
あとがき:
なんだか、最後はバタバタだったが、初めての社員旅行、無事に帰ってくることが出来た。
タッチアンドゴーが見れたのが一番の収穫。そして、島を観光する面白さに気づかされた旅だった。
今回本文中にミャークフツの蘊蓄を語ったが、実は訪問当時はそこまで島言葉に興味を持っていなかった。数年後、沖縄を旅行した折に入ったレコード店で島言葉で歌う人のCDを買おうと思ったら、たまたま宮古の方言で歌うシンガーとして下地勇氏がレコメンドされていたのだ。宮古島に行ったことがあるという縁から、そのCDを購入し、自宅で聞いて衝撃を受けて以来、あの方言は一体どういうものなのだろう、という興味を抱くようになったのだ。
つまり、もし、社員旅行の行先が石垣島だったり久米島だったりしたら、氏のレコードを手にすることもなかったかもしれないし、方言にもそれほどハマらなかったかもしれない。
そう考えると、自分にとってまたとない貴重な体験と気づきを得られる旅だったのだな、と思う。
(おわり)