[読み物-04]マンションを買って売った話【3】

そして入居:


内覧会に前後して何通かの通知が届いた。駐車場や自転車置き場の抽選の話だったり、引っ越し業者の紹介だったり。それらを粛々と処理して引き渡しの日を迎えた。

販売会社が指定する会場に出向いてそこでいくつかの書類を記入し、ローンが実行されたことを確認してようやくカギを受け取る。これで晴れて自分の持ち物となった。まぁ、正しくはローンが払い終わってからだけどね。ついに一国一城の主になった喜びをかみしめる。いや、噛みしめている場合じゃない。早々に今の家を引き払わないと家賃とローンのダブルパンチに見舞われてしまう。

引っ越しは販売会社から提携業者のあっせんがあった。その業者に依頼すればマンション側と連携して入居日に合わせて施設を養生するなどの受け入れ態勢を整えてくれる、ということだが、今回、家財はあらかた買い直すことにしたので、業者に頼むほどの荷物はなく自力でちょこちょこ運ぶことにした。


板橋のマンションに住む例の上司は、マンション購入時に販売会社から紹介された室内のフッ素コーティングを依頼して入居前に施工してもらったそうだ。このコーティングしておくと汚れが付きにくくなり、付いても簡単に落とせるので、長期間きれいに使うことが出来るらしい。

だが、その加工にかかった費用が25万円だそうだ。自分もやっておきたいけど流石に25万は高い。となればDIYである。調べてみたところDIYでも施工可能な作業であるらしい。基本的にフッ素コートはスプレーを吹き付けて拭き取るだけというのだから、ぶっちゃけ誰でもできそうだ。

しかもその薬剤はホームセンターなどで2000円程度で売られていて、それ1本で家一軒分くらいの面積を施工できるらしい。なんだ、自分でやれば2000円か。まぁ、素人が施工してその仕上がりがプロ並みに出来るとも思えないが、その金額の差はあまりに大きすぎる。


入居前にやっておくこととして一般的なのは床のワックスがけだ。これもまた業者に依頼すると数万円程度の費用が掛かるのだが、これもセルフで出来るだろう。誰だって小学校の頃には月に一回くらい教室の床にワックスをかけていたんじゃないだろうか。

そんなワックス材もホームセンターに行けば山ほど売られている。白木に施工するワックスなんてものもあったので、ついでに購入。


で、入居前にそれらを施工する訳だが、週末に来てやっていたら何週間かかるか分からない。そこで仕事を終えて帰宅したあと、荷物をまとめて車に積めるだけ積んで新居へ運び込み、その後室内の種々加工を行ってそのまま宿泊し翌朝新居から出社、仕事を終えたら新居に停めた車に乗ってアパートに帰宅、というルーチンで作業を進めていくことにした。

今の家の荷物の梱包はカミさんの担当である。


フッ素コートは薬液を付属の専用ボトルに移し替えて水で希釈して使うタイプの物だ。5倍希釈なのでかなり長持ちした。部屋のすべてに加工しても全然余ったので、入居後も年1回くらいの頻度で風呂やキッチンなどの水回りに噴霧して使っていた。

そのスプレーでまんべんなく噴霧し、その後固く絞った雑巾で拭き取れば完了。手軽なんてものじゃない。これに25万も取るのか。
ちなみに拭き取りは雑巾でやるが、水回りに関してはそのまま一度水流で流した方がよりムラなく施工できるということだったので、風呂、洗面、トイレ、キッチンは施工後数分待ってから水で流した。加工した後水を流すと、付着した水が水玉になって流れ落ちていく。これなら確かに汚れの付着をだいぶ押さえられそうだ。

なお、噴射した飛沫を吸い込むとちょっとだけ胸がサワサワしたので、出来るだけ換気の良い所で作業する方がよさそうである。


ワックスについては大抵能書きに半年に1度程度の頻度で塗り直すよう指示されているが、半年ごとに家財をどけながらワックス加工をするような人はまずいないのではないかと思う。我が家もそうなるのは目に見えているので、出来るだけ長持ちしそうなもの、ということでハードコートタイプの物を選んでみた。これは効果が1年持続というものだった。

モップが付属している物を購入しそのモップで施工したのだが、そのワックスは塗り広めるのは割と簡単ではあるものの重ね塗りがNGだった。速乾タイプのものだったせいか、二度塗りをしようと思った時には最初に加工したワックスが既に硬化し始めていて、上塗りをしたらみっともなくなってしまった。

なので、次の部屋からは一筆書きで塗ることにしたのだが、モップのワックス材が渇いてくるタイミングが分からなくて、最初のうちは途中から塗れていない、なんてことが何度か有った。

そのせいで、光にかざしてみると結構なムラを残す結果になってしまった。これはもっと柔らかいワックスにすればよかった。。。

ちなみに1年で塗り替えたかというとそんな訳はない。入居前に塗ったきり退去までそのままだった。


そんな訳で夜間に新居に籠って1日あたり2時間程度のペースで加工を進めて行き、どうにか全ての部屋を施工し終えた。なかなかに骨が折れたが、楽しみながら作業したので辛くはなかった。仕上がりは素人臭いが、かかった費用は1万円もいっていない。やっぱりDIYでやると大幅に節約できる。


週末には家具、家電を買いに行った。特に家電についてはほとんど買い直しである。家電の購入については、件の上司から面白い話を聞いていた。彼は現金100万円を握りしめて家電量販店に出向き、あれこれ欲しいものを見繕ったところ合計で120万円くらいになったそうだ。だが店員に今100万しかないからそれで良ければ現金で一括で買うけど、ダメなら他の店で買う、と交渉したところ。それで通ってしまったそうだ。まさかの20万円値引き。

それを聞いて自分らもやってみようと思った。事前に量販店に行って欲しいものの価格を調べたら80万円くらいになった、そこで70万円を持って店に行き上司と同じ方法で交渉してみたら、見事70万でゲットできた。流石は現金パワー。


加工が済んだ後は自分も調布の家に戻って荷造りを手伝い、毎日のように少しずつ荷物を運び入れた。それと同時に購入した家具や家電の受け入れもこなす。
家電を購入した際にエアコンも購入したのだが、その際配管カバーの取り付けと手持ちのエアコン1台の追加取り付けを店員にお願いしたところ、それは手配できないので、作業に来た業者と直接交渉してくれと言われた。

3月のある日その業者が取り付けにやってきた。設置場所などを打ち合わせする際に上記の依頼をしたら、すごく厭な顔をされた。
まぁ忙しい時期だから予定が狂う追加依頼は正直困るのだろうが、量販店の担当が直接交渉しろと言っているのだし、こちとらこの後何年もここで過ごすのだから、出来ないのでないならやって欲しい。追加料金については了承して作業をお願いした。

手持ちの追加エアコンというのは、ここの家にいたころに買ったエアコンである。安物だがその家は1年未満で退去する羽目になって、ワンシーズン使えておらず、勿体ないので次の家で取り付けようと思って退去時に確保しておいたものだ。次に入居した家は諸般の事情で取付けができなかったので都合4年ほど物置にしまい込んでいたのだが、見た目は新品同様。普通に使えるものだと思っていた。

件の業者は相変わらず面倒くさそうな顔をしながら作業にとりかかったのだが、それからほどなく呼ばれる。

「このエアコンはガスが抜けちゃってます。ガス抜けしたエアコンはガスを入れても動かない可能性があるんですが、今日ガスを持ってきてないのでチェックが出来ないんです。それでも良ければ取り付けますが、どうします?」

ガス抜けが本当かどうかは素人には確認しようがない。それを逆手にとってやらずに済ませようとしているきらいがないでもないが、取り付けて本当に動かなかったら、買い直さなければならなくなる。買い直しは別にいいのだが、このエアコンを取り付ける時に壁に開けた穴が残ってしまう可能性がある。新居で壁に穴が開いた状態で使うのはゾッとしない。なんか悔しいが仕方ない。引き取りは無料ということだったので、そのエアコンは結局そのまま引き取られていった。


家具や家電の受け入れも終わり、荷物の運び込みも終わったところで、前の家を解約して完全に新居に転居した。いよいよこの家での新生活のスタートである。

まだ2人暮らしなので部屋が4つもあると流石に持て余す。北側の部屋は当面物入になりそうだ。そんな具合なのでマンション暮らしにありがちな窮屈さを感じることがないのがうれしかった。
周りにも高層住宅が建っているので、階数に見合った眺望は残念ながら得られないが、それでも高層階だけあり建物の隙間からスカイツリー建設の様子が見えたり、富士山なども見ることができた。あと蚊などの虫が上がってこなかったのもよかった。


キッチンにはディスポーザーというものが付いている。シンクの排水口に生ごみを落としてスイッチを入れると、中にある刃が回転して細かく粉砕して下水に流す装置である。マンションなのでゴミは24時間いつでも捨てられるのだが、野菜の皮や魚の骨などをその場で処理できてしまうのが地味に感動。


駐車場は敷地内で契約した。都内と言えば駐車場が高い。この辺りだと最低2万円以上というのが相場で、流石にローンを返済しながら毎月駐車場に2万も3万も取られたらけっこうインパクトがある。そこで、マンション選びの際に駐車場が100%を謳う物件で絞り込んでいた。

なので、このマンションは敷地内駐車場100%の物件である。駐車場自体は立体パズル式なのだが、敷地内駐車場であるうえその賃料も1万円程度と周辺相場よりだいぶ安かった。当然申し込んだのだがちょっと意外な落とし穴があった。この駐車場は複数段のパレットになっているのだが、このパレットの位置によって停められる車のサイズに制限があったのだ(その代わり安い)。

自分の車はモビリオスパイクなので、ワンボックスタイプが駐車可能なパレットでないと停めることが出来ない。折しも世の中はワンボックスカーブームで多くの入居者はワンボックスカーを所有している。案の定、ワンボックスが駐車可能なパレットの数に対して申込数がオーバーしてしまい抽選となってしまった。

そういえばマンションの宣伝広告で駐車場100%「確保」と書かれていた。入居戸数分の台数は用意しているがどの車でも停められることを保証している訳ではない。うまい言い回しだな。。。これで抽選に外れたら車を枠に収まるものに買い替えない限り、敷地内には停められないということだ。結果我が家は当選し、車室を無事確保することが出来たのでよかったが、万一外れたらと思うとぞっとする。


車高の高い車に乗っている家がそんな感じで抽選となってしまったので、現時点で車高の低い車に乗っている人は当然車高の低い車しか停められないパレットが割り当てられた。そういうお宅も何年かして車買い替えとなった時に、家族構成が変化したから次はワンボックスにしたい、なんて思っても車庫に入らない。

だが、車高の高い車が停められるパレットは全然空きが出る気配がない。小さな車に買い替える人がいない訳ではないのだが、将来的にはまた大きい車に買い替えとなる可能性もあるわけだから、わざわざ小さいパレットに移動したいと申し出る人がいないのだ。まぁ、そうなるわな。既得権益である。なので、大きい車用のパレットに小ぢんまりとした軽自動車が停められている、なんていう状況が起こるようになり、その辺の融通についてどうにかならないのか、という声が管理組合に届いて毎年のように議論になっていた。


ちなみに、立体パズル式駐車場というのはその名のとおり、車室が上下左右に動くことで少ないスペースで多数の車両が収容可能なタイプのものだ。チクタクバンバンを立体にしたような物と思って貰えれば分かりやすいかも(そうか?)。

入出庫の時は機械の操作卓で車室を選択することで自分のパレットを呼び出すのだが、結構なパレット数なのでタイミングが悪いと呼び出しにかなりの時間を取られる。雨なんか降ると車を入出庫させる人が増えるので、むしろ降雨時の方が順番待ちが長くなる。だが、雨だからといって屋根のあるところで待っていたりすると割り込みされてしまう。なのでパレットの前で傘を差して自分の番が回ってくるのを待つしかない。

相場より安価に停められているのだからまぁ多少は我慢なのだが、下手すると15分くらい待たされることがあって流石に閉口した。
というか、将来このパレットが老朽化して交換、なんて話が出たら大ごとになりそうだ。それこそ大モメになるのが目に見えている。。。


Posted by gen_charly