八丈島上陸【8】(2014/09/20)
どうぞ、と手招きするおじさんを前に、お邪魔する前に一番気になっていることを質問してみた。
「奥様には(うちらが来ることを)連絡したんですか?」
「言ってないけど大丈夫wこういうことばかりしていつも怒られるんでね、大女将って呼んでるのwww」
いや、呼んでるの、じゃなくて。
事前に何の連絡もなく見知らぬ人を連れて来たらいくらなんでも普通かなり嫌がるだろう。 おじさんはしきりに大丈夫大丈夫と太鼓判を押すのだが、言葉の語尾に必ず笑いが入るので、本当に大丈夫なのか非常に不安だ。。。
おじさんの後に続いておずおずとお邪魔すると、奥の部屋から奥さんが顔を出し、こちらを見るなり怪訝そうな顔をした。
・・・ですよねー。。。
こちらもその雰囲気に緊張したが、おじさんが早く上がるよう促すので、お邪魔します、の言葉に続けてよろしくお願いします、と言ってから部屋に上がらせてもらった。
山歩きで靴が濡れてしまったのと、温泉に入るつもりだったのとで車を降りる時にサンダルに履き替えていたので、3人そろって素足だ。
自分だったらそんな人を自宅に上げたいとは思わないだろう。ちょっと恐縮する。
機織り機が置かれた部屋に通され、奥さんに挨拶、何とも言えない微妙な空気が流れる。。。
奥さんは、少し困ったような顔をしながら、
「少し前に納品が終わっちゃったから今は織っていないんだけど。。。」
と言って少し申し訳なさそうな顔をした。
こちらも機織りや黄八丈に関する知識がほとんどないので、どのような事から質問したらよいのか戸惑ってしまったが、それからは意外にも奥さんの方からぽつぽつと話し始めてくれた。
黄八丈といえば、その名前のとおりカリヤスという草を煮出した染料で染めた黄色い生地の織物というイメージだが、最近はあまり人気がないらしい。
まぁ、確かに着物を常に身に着けなくなった昨今では、女性が着る和服と言えば晴れ着ぐらいなもので、晴れ着にしては地味な印象は拭えないもんな。。。
かといって八丈の織物産業が衰退産業かと思いきやそうでもないらしい。最近では泥染めなどで染めたグレーや茶色などの生地の人気が非常に高いそうで、注文が重なって思いのほか忙しいとのこと。
「殆ど納品が済んでしまっているので手元にはあまりないんだけど。。。」
と言いながらいくつかサンプルで取っておいたという端切れを見せてくれた。
確かにグレー味がかったシルバーのような生地や少し明るめの茶色の生地など、今風でシックな雰囲気だ。
「このシルバーなんか、こないだ大量に注文が来たんですけど、汚れも目立ちそうだし何に使うんでしょうね?」
織り方には平織と綾織というのがあるそうだ。綾織だと市松模様のような模様を生地に編みこむことができるが、平織と比べると足さばきがややこしいので途中まで織って間違いに気づいてやり直す羽目になることがあるとか。その一方で、平織は綾織に比べれば足さばきは楽になるのだが、生地に模様がないために粗が目立つそうでこれはこれで綾織以上に神経を使うそうだ。
絹は蚕糸を数本束ねて一本の糸にしていく。大抵、縦糸は9本、横糸は10本で1本の糸を構成しているらしい。
こちらでは以前は養蚕もやっていたそうだ。蚕は育ち始めると朝と言わず夜中と言わず餌やりをしなければならずゆっくり寝ることもできなかったという話や、繭を紡いでいると手がつやつやになるという話が出ると、かつて実家が養蚕をしていたというお義母さんは、昔見た光景を思い出したのか懐かしそうにうなずいていた。
蚕の一番外側の糸(きびそ)はゴワゴワしているので人気がなかったが、最近では帯などにも使われるようになり、これがなかなか高級品になっているとか。
お義母さんが、織り方はどのようにして覚えたのかと質問する。
奥さんが言うには、島の女性は大体機織りを習うのだという。機織りを覚えたいと訪ねてくる人もたまにいるらしいのだが、身に着くかは本人次第と言う。
そのような話をあれこれ聞いていると、今度は部屋の奥にこもっていたおじさんが顔を出して話に加わった・・・のだが、おじさんも奥さんも同時にしゃべるものだからどちらの話を聞けばいいのか混乱した。。。w
それからおじさんが、お願いがあるからこっちへ来て、というので、別の部屋へ移動することになった。カミさんがおじさんについて行ったあと、お義母さんが部屋から出る前に一枚機織り機の前で記念写真を撮らせてほしい、と申し出ると、じゃあ、織っている所をお見せしましょうか、ということで、機織りをしている様子を見せてもらうことが出来た。
これをカミさんに話したら、大層悔しがっていたのは言うまでもない。
部屋を出る前に奥さんに気になっていたことを質問してみた。
「ご主人は普段こうして知らない人を家に招いたりするんですか?」
「・・・もう、しょっちゅうよ(笑)」
・・・ですよねー。