紀伊御坊と伊勢の鉄道【1】(2009/10/24)
2007年あたりから高校以来封印していた撮り鉄趣味が再燃していた。
以前は鉄道に関する情報を調べるためには、鉄道雑誌や時刻表を見るか、同好会などに参加して情報交換をするか、自らの足で現地に足を運んで現状を確認する以外になかったが、自分は同好会の類には参加しなかったので、雑誌や時刻表が情報収集の主力だった。
だが、これだけだと情報が限られてしまう。近所なら再挑戦も容易であるが、遠方だとこれはなかなかのリスクだった。遠路はるばる現地まで出向いてもお目当ての車両に巡り合えずじまい、ということが割と普通に有った。
ここ数年、インターネットの鉄道に関する情報は飛躍的に充実してきている。居ながらにして遠く離れた鉄道会社の現況などに関する情報を詳細に調べることができるようになってきたので、少ない時間をやりくりして狙った車両を撮影しに行くことがやりやすくなった。
もう一つ、デジカメの普及も撮影精度の向上に大きく役立っている。何しろ撮影したその場で写真の出来栄えが確認できるのである。これは大革命だった。フィルムカメラの時代は現像が仕上がって来るまで出来栄えが分からなかったので、期待に胸を膨らませつつ受け取ったらあらかた大失敗している、なんてことがまれによくあった。
そんな具合に鉄道撮影がやりやすい環境が整ってきたこともあって、デジカメの入手をきっかけにして撮影に出かけるようになったらやがて趣味が再燃してしまった、という次第。まぁ環境が整ったことも大きいのだが、それ以前に鉄道写真を撮影しに行くことに対する気恥ずかしさが最近だいぶ薄れてきたというのも大きな要因のひとつではある。
まぁそういうわけで最近はインターネットの鉄道ニュースも頻繁にチェックしていたのだが、ある日、紀州鉄道のキハ600形が10月25日で引退するという情報を入手した。
紀州鉄道は和歌山を走るミニ私鉄で、骨董品のようなディーゼルカーが走っている。それがいよいよ引退するというのだ。
ぶっちゃけ、車両の更新よりも鉄道の廃止の方が先ではないかと思っていたので、その情報はちょっと意外だった。まぁそれはさておき、このニュースをきっかけに久しぶりに関西方面への遠征に行きたくなった。
カミさんにその旨を相談したら一緒に行きたいと言われたが、ひたすら撮り鉄をする旅だ、というと、じゃあいいやと諦めてくれた。
撮り鉄の旅はその行程がストイックなものになりがちなので、興味のない人からするとひたすら退屈でつまらないものになる。カミさんを同伴して観光半分のお出かけも悪くないが、頻繁にいかれる場所でもないのでどうせ行くなら心行くまで鉄道の写真を撮りたい。であれば1人で行ったほうがベスト。
ということで、割と思い立ったが吉日的に和歌山を目指して旅立った。
2009/10/24
撮影は2日間。金曜の晩に出発して日曜日に帰ってくるプランだ。
最初に向かったのは紀州鉄道の車庫がある紀伊御坊駅。時刻表を確認するとほどなく列車が来るようだ。
ヘッドマークを掲げたキハ600形(603)が入線してきた。
しかし煤けてるなー。。。車体裾の辺りはサビを埋めたような跡もある。
車両の引退は明日だが、駅には自分と同好の士が数名、撮影にいそしんでいた。
ホームの片隅にもう1両、予備車両となっているキハ600形(604)が留置されていた。
律儀にも前面窓の上部に休車車両と書かれたシールが貼られていた。沿線の利用客にとっては関係のない情報だし、職員の間ではわざわざ明記しなくてもいいような話である。誰向けのメッセージなのだろうか。
そしてその背後にはキテツ2形が停まっていた。こちらは北条鉄道で走っていたフラワ1985形を譲受したものだ。
その形式名が示しているとおり1985年式の車両であり、既に25年近い車齢である。移籍に際して綺麗に化粧直しがされているが、あとどのくらい走るだろうか。
それから駅の窓口で引退記念の乗車券を入手し、続けて紀勢線との分岐駅である御坊駅へと移動。
御坊駅で先に撮影したのは117系。
かつては京阪神間を新快速として爆走した車両だが、今では普通列車だ。
元がスマートなデザインなので、未だにそれほど陳腐な印象はない。むしろ上等な車両を普段使いできて羨ましいな、とすら思う。
113系の改造車である2000番台。
当時、割と直近に改造された車両だったが、車両の前面は103系を彷彿とさせるデザインになっていてあまりこだわりが感じられない。
それから紀州鉄道線のホームに移動すると、暫くして西御坊から折り返してきたキハ603が入線してきた。
数名の撮影者はいたが、まだ引退の前日と言うこともあってか葬式鉄などの姿はなく、ほとんどは地元の一般客だった。
折り返しの時間で車内を撮影。板張りの床、ミントグリーンに塗られた室内、2枚窓の前面デザイン、どことなく片上鉄道のキハ312を彷彿とさせる。
運転席はこんな感じ。よく見るとマスコンハンドルとブレーキハンドルが他の一般的な車両とは反対に取り付けられている。
この鉄道会社で長いこと運転手を続けた人は、同業他社へ転職する際に大いに苦労しそうな気がする。
折り返しで発車する間際、紀勢線に入線してきた113系と並んだ。両車とも既に思い出の世界の住人となってしまった。
キハが出発していったので次へ進むことにした。とはいっても次の見どころはまだ決めていなかった。
とりあえず、帰り道として進む道すがらで寄れそうなところに寄る感じで行ってみたい。