ほぼ日本一周ツアー【1】(2000/09/15~09/18)

一昨年、昨年と、このところ毎年のように札幌のS君と会っている。毎年会っているのにお互い話が尽きないので、いつも最後は物足りなさを感じつつの解散となる。

そんなS君は作曲も手掛けていて、先日自主製作のミニアルバムを送ってくれた。アルバムの中に収められている曲は、TーSQUAREのようなポップなフュージョンの雰囲気を持ちつつ、ゲームミュージックの世界の流行も取り入れたようなドラマティックな楽曲が収められていて、同世代なのにこれだけの作曲が出来るなんてすごいな、と感心した。


お礼に自分が出演したライブの録画を送ってあげたら、なんか気に入って貰えたらしく彼のそのオリジナル曲のベースパートを自分の演奏でぜひレコーディングしたい、というオファーを送ってきた。

レコーディングは当時まだ未経験だったがいずれチャレンジしてみたいとは思っていた。ただやったことがないので段取りなどが分からず、そのうち・・・と先延ばしにしていた。
そうしたタイミングでのお声がけである。手ほどきを受けるまたとないチャンス、ということで二つ返事で参加表明したい所だが、いかんせんS君は札幌にいる。レコーディングというからには機材のあるところまで出向かなければならない。即ち、楽器を担いで自ら札幌に出向かなければならない。

そう考えると行って帰って来るだけでも大仕事だ。レコーディングの手ほどきを受けるためにわざわざ札幌まで出向くような話だろうか。ちょっと逡巡したが、自分の好きな楽曲を自分の演奏で記録に残せることへの誘惑が勝り、結局札幌行きを了承した。


日程を調整する中で9月の土日がターゲットとなった。自分は夏季休暇を当てがってターゲットの土日を起点にした8日間の休みを取ったが、S君はその土日しか休めない、とのこと。
つまり与えられた時間はその2日間のみ。2日間でレコーディングなんて完了させることが出来るのだろうか。

まぁ、ぶっちゃければレコーディングは2人が集まるための口実のようなもの、というのはうすうす感づいていた。だってレコーディングなどやったことがないと言っている人間がそんな短納期で仕上げられる訳がないことはS君だって知っている筈。所詮、楽器を囲んで尽きない話の続きが出来ればそれでよいはず。

折角の再会なので一度くらい札幌近郊をS君の案内で観光して回りみたかったのだが、休みが取れないのなら仕方がない。休暇の残りはどこか1人で散策するか。


とは言っても北海道は昨年観光したばかりなので、どうせならまだ見ぬ街へ訪問してみたいと思った。出発までの間にあれこれ検討した結果、福岡へ行ってみようと思った。どうかしてるぜ。

札幌から福岡と言ったら日本の端から端みたいなものである。普通そういうルートで観光することはない。無駄の極致なプランだが、当時職場が変わって少し収入に余裕が出来てきたのもあって、普通の人がやらなさそうなことをやってみたくなったのだ。

まぁ、今になって振り返れば、S君と会うのはまた別の機会に譲って最初から九州に行っとくべきだったかな、と思わなくもないが、この旅行が自分の人生における得難い経験となっていることもまた事実。後悔はしていない。


ということで再びの北海道とまだ見ぬ九州をいっぺんに回る欲張りツアーを敢行することにした訳だが、今回は日程的にも移動距離的にもマイカーという訳にはいかない。ということで札幌へと福岡への移動手段は思い切って空路を選択した。

そしたら楽器が持ち運べないことに気が付いた。
いま自分の楽器を収納しているケースは布製のバッグなので、そのまま荷物として預けるには不安だし、かといって寸法的に機内には持ち込めない。

どうしたものかと思ったが、結局ハードケースを購入することにした。予想外の出費である。。。なんかどんどん方向性がおかしくなっているような気がするが気にしたら負けであるw


一路、札幌へ:


2000/09/15

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夕方の羽田発新千歳行きの飛行機。
当時の自分は仕事で出張することもないし東北以外に親戚もいなかったので、飛行機は縁遠い乗り物であった。家族と旅行で飛行機に乗ることは何度かあったが手続きなどは親任せだったので1人で乗るのは初めて。無事に搭乗できるか不安だった。

荷物を預ける場所は間違えていないか、手荷物として持ち込むものに持ち込みNG品がないか、手荷物検査場の入口は間違えていないか、ひとつひとつ不安だった。

オロオロしながらどうにかクリアしてあとは搭乗口へ向かうだけとなった。で、チケットに記載されている83番ゲートを探しながら歩いていくのだが、いくら歩いてもそのゲートが見つからない。探しながら歩くうちに突き当りまで行ってしまったのだがそれでも見つからない。なんかおかしいと思って手近にいた係員に助けを求める。


係員はチケットを確認して目を丸くした。

「83番ゲートは、ここからだと反対の端っこになります。もう出発まで間がないので、急いで向かいましょう。」

反対!?まさか全力で反対方向へ歩いていたなんて。しかもここにたどり着くまでにたっぷり10分は歩いている。それをもう一度戻るのか。。。

係員の手を煩わせてしまうことへの申し訳なさと、搭乗口ひとつまともに見つけ出せない恥ずかしさと、出発に間に合うかどうかという不安とが、ごちゃまぜの感情になって自分を襲う。係員もいい迷惑である。荷物満載のスポーツバッグが肩に食い込んで痛いが、とてもちょっと待ってください、なんて言える雰囲気ではない。足早に歩いて行く係員を頑張って追いかけるしかなかった。

ゲートにたどり着いたのは出発5分前だった。ここまで案内してくれた係員にお礼を言って飛行機に乗り込む。
この一件で精神的、体力的に疲れ果ててしまい、自分の席に着席したら離陸する前には眠りに落ちていた。


気が付くと新千歳空港に到着していた。散々な単独飛行機初搭乗だったがそれもまた思い出の1ページだ。
それから列車とバスを乗り継いでS君の自宅に到着。遠かったー。

S君宅に到着したのはかなりの深夜だったと記憶している。にもかかわらず嫌な顔もせず招き入れてくれた。
それから一頻り談笑して就寝。


レコーディング開始:


2000/09/16

この日はレコーディング初日。曲は知っていてもコード進行やリズムパターンなどがまだ解読できていなかったので、まずはS君からスコアを貰って譜読み。3連シャッフルの曲でスリップビートという、難解なリズムパターンのその曲はなかなか頭に入らなかった。

冒頭で今回の旅のきっかけとその主目的がレコーディングであると書いたが、当時の自分の技量では楽譜を1日で読みこなしてそのままレコーディングまで仕上げるスキルがなかった。だがS君は楽曲を一向に覚えない自分に呆れる風でもなく、練習の合間の無駄話で脱線しまくりだった。やっぱりレコーディングは無駄話をするがための口実だったかw

結局丸一日、深夜まで頑張ったが完成させられないままその日はギブアップ。


島武意海岸へドライブ:


2000/09/17

大した睡眠も取らず朝を迎えた。S君は既に起きていた。タイムリミットが刻一刻と近づく中この日がラストチャンス。だが、曲はまだ完全には覚えきれていない。どうにもスリップビートの所でコードが変わるのが馴染まず出遅れてしまう。。。

言い訳はさておき、最終日でこの体たらくでは今晩までに仕上げることなど奇跡でも起こらない限りはあり得ない。。。どうやらそれはS君も感づいているようだ。

昼前にはレコーディングはPC座談会へと発展的解消を遂げ、やがて気分転換にドライブでも行くかと言う話になって、S君の実家の軽自動車を借りたドライブへと発展的解消を遂げることになった。つまり諦めた、と言うことだ。

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ドライバーはなぜか自分が受け持つことになった。運転は嫌いじゃないのでそれでも一向に構わないのだが、いいのだろうか。。。
行くアテは特に決めてない。S君が気まぐれに右とか左とかいうのに合わせて進んでいたら、小樽を過ぎた。


そのまま道なりに進んでいくと、気が付くと積丹町の島武意(しまむい)海岸という場所まで来ていた。

ここで海岸の方降りてみよーか、というS君の指示に従って国道から海岸沿いの集落への道を下る。
集落を抜けたドン突きが島武意海岸だった。

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ここは積丹半島の最突端部に位置する。台地の上にある駐車場に車を置くと絶壁を下る遊歩道が取り付けられている。
そこを下ると周囲を崖に囲まれた海岸だった。海岸にも険しい岩が屹立している。

なぜS君がここに行こうと思ったのかは分からない。これ以上進むとキリがないからこの辺で、と思ったのだろうか。
こんな険しい海岸でも日本の渚100選に選定されている海岸らしい。渚というともっと穏やかな波打ち際をイメージするがそう言うものでもないらしい。

太陽は既に西の空に沈みつつある時間だった。そのせいかは分からないが周囲には人っ子ひとりいない。3人で来てるからまだ空元気も出るが1人だったら寂しくて早々に立ち去りたいと思うような場所である。

まぁ、そうはいってもそれほどやることのある場所でもないし、風景を愛でるようなセンスがあるわけでもない3人なので、30分ほどで退却となった。
でもまぁ、ある意味地元の人だよりの旅な訳で自分1人だったらまず来ない場所だ。そういう意味で割と満足。みんなが満足できたかどうかは知らない。


その日の晩はS君の家でごちそうになった。お父さんから「好きなだけ乗せて食べなさい」と、自家製イクラの漬けを振舞ってもらった。
お言葉に甘えて丼のご飯が見えなくなるくらいイクラをまぶして豪勢なイクラ丼が出来上がった。

もうその見た目だけで美味しいのだが、食べてみたら水晶玉のように真ん丸な粒々のイクラが口の中ではじけて、これまで食べたことの無いとてもうまいイクラ丼だった。

やっぱり北海道の料理はうまいなぁ!と感涙しながら食した。

そして、レコーディングは案の定満足な成果を残せぬままタイムアップとなった。


そして福岡へ:


2000/09/18

この日は平日。S君は早々に仕事出かけて行った。自分が乗る飛行機は14時台なのでまだ時間があるのだが、S君のいない家でご家族に油を売る訳にも行かないので、荷物発送の手配だけして9時だったか10時だったか、そのくらいにS君の家を出発した。

ここまでは自分にとっての趣味の時間。ここからは旅である。
旅をするのにハードケースに収まった楽器は邪魔でしかないので、札幌で買った土産物と一緒に宅配便で発送したのだが、何故かスポーツバッグ内の余計な荷物を一緒に送ってしまおう、と言う考えに及ばなかった。


そのことが後々の行程で大いに後悔する羽目になるとはこの時は思いもよらず。

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飛行機の時間までまだ時間があるので、札幌の市電などを撮影して時間をつぶしてから空港へ向かった。そして福岡行きの便に搭乗。
今回は難なく登場することが出来た。流石に羽田の二の舞だけは勘弁。

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札幌から福岡といったらその距離は相当なものになるが、移動時間は2.5時間くらいだったと記憶している。電車や車で行ったら2日間以上かかる行程を2.5時間で行けてしまうなんて、飛行機はやっぱりすごい。

できれば外の景色を見ていたかったが、ここ数日の寝不足のせいで離陸したらほどなくウトウトとしてしまい、気が付いたら福岡空港だった。
なんかあまりにあっという間だったので、空港に降り立つまで本当に福岡に着いたのだろうか、もしかして間違えて福島あたりに着いてしまったのではなかろうか、なんてことを考えたがちゃんと福岡空港だった。


ということで福岡に到着。自分にとっての初の九州上陸。そしてこれで4島全てに足跡を残すことが出来た。

さて福岡に着いたわけだが、実はこの後の旅程を何も決めていない。フラフラとその場の思い付きで行ってみたいところに行ってゆるゆると東京へ戻ろう、とそんな腹積もりである。

ただし、西日本を旅するにあたってぜひとも行ってみたいと思っている場所が2カ所あった。そこへの訪問は今回の旅行のマストとしたい。


1つ目はJR小野田線の本山支線を走るクモハ42を見に行くこと。
クモハ42はいわゆる旧型国電と呼ばれている車両の一つで、当時日本で唯一生き残っている旧型国電だったのだ。

機会があったら見に行ってみたいと思っていたが、山口県なんてそうそう気軽に行ける場所ではない。だが今回はそのまたとないチャンス。今回行かなければもう2度と見ることが出来ないまま引退してしまいそうな気がするのでこれは絶対見ておきたい。


2つ目は瀬戸内海に浮かぶ豊島に上陸すること。
瀬戸内海に豊島は3つある。一番有名なのはだいぶ昔に産廃処理の問題で有名になった豊島(てしま)の方であるが、自分が行きたいのはそちらではなく弓削島の沖合いに浮かぶ豊島(とよしま)の方である。

この島は地元民かよほどの離島マニアでもなければまず知らない島だと思うが、なぜそんな島を知っているのかというと、るるぶの「瀬戸内の島々」というガイドブックに掲載されていたから。

瀬戸内海に数多ある島々の中でなぜその島に行ってみたいのかというと、今の定住人口が2名と書かれていたからだった。
かつては数十人単位の人が暮らしていたらしいのだが、島を離れる人が後を絶たず過疎化が進んだ末の状態であるらしい。
島には主を失ったかつての住居なども残っているらしく、ガイドブックを読んだ時からその寂しげな印象を持つ島を一度この目で見てみたいと思っていた。

そんな過疎の島だが、意外にも弓削島から豊島へ1日2便の定期船がありアクセスは悪くない。そのうえ島には宿泊可能なコミュニティセンターもあるということなので島で一日を過ごすことも出来る。そんなひと気のない島で過ごす夜はどのようなものかとても興味があるのだ。

島に残るわずかな定住者も今後いつ島を離れることになるか分からない。もしそうなったら流石に定期船もなくなってしまうだろう。そうなったら訪問の難易度が大幅に上がってしまうので、そうなる前に足跡を残しておきたいと考えたのだ。


まぁ、まずは今日の寝床を確保しなければ。
福岡空港から地下鉄で博多に出て、駅の観光案内所で安く泊まるビジネスホテルを手配。どこのなんというホテルだったかはもう失念した。

晩御飯はコンビニ飯。それこそ博多ラーメンでもモツ煮でも博多の旨いものはいくらでも有るのだが、北海道旅行の時にも書いたとおり、酒が飲めないがために雰囲気のありそうな店に入る勇気がないのだ。これが自分のスタンダード。さびしくなんかないやい。

食事を済ませて部屋でくつろぎつつ、東京へ戻るための大雑把なスケジュールを立てておくことに。
その検討によって豊島へ行くのは明後日の昼くらい、という見通しが立ったのでコミュニティセンターに宿泊の予約を入れておくことにした。


だが電話口の向こうはなかなか受話器を取ってくれない。不在かな、と思った頃ようやく受話器が上がった。そして怪訝そうな声で「はい?」と一言。いや名乗ってよ。。。
島へ行くので1日宿泊させてほしい、という旨を伝えると「宿泊の予約は前日にならないと受け付けていないから、悪いけど明日かけてくれないかな」との返答。

あれ、そういうもんですか。
ちょっと予想外の回答に戸惑ってしまったが、まぁ、予約受付できないというのなら仕方がない。
また明日かけ直すことにしよう。。。

とりあえず明日は福岡近郊の鉄道を撮影し、その足で広島方面へ抜けてみようと思う。

Posted by gen_charly