八丈島上陸【9】(2014/09/20)

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で、おじさんのいる部屋に移動すると、テーブルの上に何やら習字の道具一式が並べられていた。てっきり、おじさんは実は書道家で、自慢の書でも披露してくれるのかな?などと思いながらワクワクして席に着くと、何枚かの半紙を並べて、

「これね、以前来た人に書いてもらったの。これなんかよく書けているでしょ?」

ほうほう。。。って、それって。

「じゃあね、みなさんも記念に書いていってちょうだい。」

あーやっぱり。。。
何か気の利いたことを書かなきゃと思うと、発想に瞬発力がない自分なんかは非常に悩むわけだ。ましてやこんなところで悪筆を晒す辱めを受けるのかと思うと気が重い。

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その点、カミさんは小さいころ書道を習っていたので、字を書くことに関しては自信ありらしいのだが、作文力がないので、自分同様頭を抱えて困惑している。
ましてやお義母さんはこういう突発的なイベントに対して免疫がないのでもはや軽くパニックだ。

カミさんが習字をたしなんでいるのを良いことに、言葉を伝えて書き記してもらおうというアイディアが出たが、おじさんは自分で書いてくれなきゃダメ、と頑なに応じない。

覚悟を決めてカミさんから順番に言葉をひねり出して半紙に書きなぐった。
多分脳のCPU使用率はこの時100%を超えていたと思うw

お義母さんなどが半紙の前で呻吟している間におじさんは別の半紙に何やら書き始めた。
書き終わって見せてくれたのは、実に墨痕鮮やかな筆さばきでつづられた、八丈ショメ節の歌詞だった。

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さっき温泉で歌わされた時はみな微妙な雰囲気になっていたが、カミさんは意外にもこのショメ節に興味があったようで、もう一度教えてほしいと食いついた。
おじさんは我が意を得たりとばかりに相好を崩して歌い始める。

「じゃあね、まず最初にショメーショメ(っていう合いの手から)ね。」

「チョメーチョメー」

「いやいやwチョメチョメはダメだよwwショメーショメっていうんだ。」

あっ、そうなんですか?と驚いた表情を見せるカミさん。
んー、チョメチョメはやっぱり駄目だよなぁ。山城新伍じゃないので。。。w

「ショメね。潮目から来ているとか塩梅(あんばい)から来ているとかいろいろ説があるんだよ。」

「ショメーショメ!」

「♪イヤー 沖で見たときゃ 鬼が島と見たが 来てみりゃ 八丈は 情け島」

「ショメーショメ!」

「・・・じゃ、今度はあなたがどうぞ。」

「え!?歌詞までは分からないですよ。。。」

「だからさ、八丈島は流人が流されてきた島でしょwその流人が船から八丈島を見て鬼が島なんじゃないかと思ったわけね。で、上陸してみたら島の人が温かい人ばかりで、情けの島だと知った、っていう歌詞なのよ。」

「イヤー (以下略)」

何度か繰り返しながら少しずつ歌詞を覚えて行ったが、節回しまではこんな短い時間で覚えられるわけもなく。。。

ちなみに、上の写真の通り、おじさんの雅号は「おんたけ山」となっている。
子供のころ疎開した先が御嶽山の麓で、島に戻って来て木曽節を歌った所、「おんたけ」というあだ名がついてしまい、以来雅号にしているそうだ。
「山」を付けているのは、人から呼ばれる時に呼び捨てにされると気に食わないから付けたとうそぶいていたが本当かどうかは分からない。

御嶽山と言えば、自分たちが八丈島から帰ってきた翌週に水蒸気爆発を起こし、戦後最大の犠牲者を出してしまうという大惨事が発生した。
おじさんも、ニュースを耳にして心を痛めているかも知れない。

「ところで、島で八丈太鼓とかも見てみたいと思っているんですが、おすすめの場所とかありますか?」

とカミさんが聞くと、

「今は太鼓は置いてないけど、太鼓の叩き方ぐらいならできるけど、やってみるかい?」

「ぜひぜひ!」

「じゃ、これね、バチがないから、はい、二本持って」

とさっきの書道で使った筆を渡された。すかさず奥さんがこっちの方がいいんじゃない、と言って台所から菜箸を持ってきた。
それは実に見事な阿吽の呼吸だった。っていうか奥さんもなんだかんだ言ってノリノリじゃないw

「八丈太鼓ってのは、上拍子(うわびょうし)と下拍子があって、まず下拍子ね。よくあるのはシャバタキというトントンって(叩く)のがあるけど。。。」

と言いながら筆で机のヘリを叩く。

「この辺ではトッピキと言ってトントトって言う叩きかたなの。やってみて。」

筆を受け取ったカミさん、小学生のころに小太鼓をやったことがあるらしくリズム感には自信ありという雰囲気で叩き始める。

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「トントトトントトトントト・・・」

「これに上拍子を入れるからそのまま叩き続けて。」

「トントトトントトトントト・・・」
「トンットントントンットッ・・・」

「うわーつられるー!!」

カミさんが悲鳴を上げる。

「ダメダメw下拍子は崩れたらだめなのよ。八丈太鼓は両面打ち、っていって、太鼓の両側から打つ珍しい打ち方なんだけど、お互いが打った時に反対側に音が抜けるから、このタイミングが合わないと上手く聞こえないんだよ。」

これも何度かチャレンジするがすぐにつられてしまって拍子がおかしくなってしまう。

「あとね、下拍子は・・・よく聞いててね。トン「ト」トっていう風に強弱を付けなければならないのね。」

うわ、裏拍ですか。。。これは簡単にできる物じゃないぞ。。。
とはいえ、そこは仮にもフュージョンバンドのベーシストとして鳴らしたワタクシ、難しいリズムほどなんだか燃えてくるw。

「俺もやってみたい!」

思わず立候補してしまった。

「トン「ト」トトン「ト」トトン「ト」ト・・・・」
「トンッ トン トントン ットッ・・・」

うわーつられるー!
・・・あっさり玉砕。

「む、無念。。。」

「ほら、それ一番ダメな叩き方よ。拍がひっくり返っちゃってるでしょ?」

おじさん男には厳しいのね。。。
ズコズコと引き下がるワタクシ。

そんな感じの緩くも和やかな時間が流れ、時がたつのを忘れそうになったが、ふと時計を見ると18時30分を指している。流石にそろそろお暇しないと。。。
話しが途切れるタイミングを見計らって中座を伝えようとするものの、おじさんの舌は絶好調で話がなかなか途切れない。流石に見かねた奥さんが割ってくれて、どうにかお開きの雰囲気に。

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お礼を言ってお暇しようとするうちらに奥さんがおすそ分けと言って、トウモロコシとなんとパッションフルーツをくれた。こちらがお礼しなければならないような立場なのにお持たせまでしてもらうなんて。。。
丁重にお礼してホテルへの帰路につき始めた。

いやしかし、短い時間ながら八丈の文化について地元の人の生の声で教えて貰うというかなり貴重な体験をさせて貰った。
しかも独り占め、かなり贅沢な時間だったと思う。

八丈島、アツい島だぜ!

Posted by gen_charly