富士山リベンジ【6】(2013/08/24)
重たい足と頭を引きずり外へ出る。昨晩から一晩世話になったが、あまり良い思い出を作れなかった山小屋を振り返る。折角だから写真ぐらいは撮っておこうと、適当に場所を探して記念の一枚。
写真を撮り終えて次の瞬間、あれほどしんどかった頭痛と吐き気がいつの間にかすっきり消え去っていることに気づいた。なにこれ。アミノバイタルが神作用した?
まだ、席を立ち上がってから5分も経っていない。そんなことってあるのか!?
寝ても覚めても悪夢にうなされていた昨晩からすれば、実にすがすがしい気分だが、貴重な日本最高所での宿泊を一切楽しめなかったので、嬉しいような悔しいような。。。
そもそも疑問なのは、昨晩からの症状は本当に高山病だったのか、ということ。山小屋を出たとたんに治る高山病なんてあるのだろうか。
この後の行程を進めながら、自分の身に降りかかった災難は何だったのだろうと思いを巡らせていた。
前回は頭痛がしんどくなって先に進めなくなり、山小屋に避難したら急に気分が悪くなってグロッキーになった。ところが、山小屋を出て再び登り始めたらいつの間にか回復していた。
そう考えると、今回と共通するのは山小屋の中にいる間だけ具合が悪かった、ということである。
一般に高山病は下山するしか解決方法がないということなので、山小屋の中にいるかいないかは基本的に関係ないはず。
だが、いつもの片頭痛にしては、治り方が急すぎるので、これも違う気がする。
そう考えると、富士山の山小屋が体質に合わない、ということが考えられるが、どうにも症状と原因が紐づかない気がする。子供の頃、喘息もちだったので、ホコリ臭い所やカビ臭い所で、喘息の症状が出ることはあるが、吐き気を催したことはない。
ということで、未だに原因は特定できていない。特定するためにはもう何度か富士山に足を運ばないとならないが、また同じ辛さを味わうのは正直願い下げだ。
まぁ、いずれにしても自力で下山できる見通しが立ったことにはホッとした。
ツアーじゃないので今日は終日時間がある。さっきまでそのまま下山するつもりでいたが、調子も戻ったので、お鉢めぐりに行きたくなった。
とはいえ、まだ病み上がりなので、無茶はしない方がいいだろう。途中で進めなくなったらまずいことになるので、まずは剣ヶ峰のてっぺんまで行ってみて、そこで考えることにした。
と、その前に、無事登頂が完了した旨を報告するため、富士浅間神社の奥宮へお参り。
境内にはご来光目当ての登山客が押し寄せ混雑している。すり抜けるように参拝を済ませる。
それからおみくじを引いた。大吉と出た。その喜びを噛みしめる間もなくすぐ脇にいた若者が「大吉だー!」と大声を上げる。
うるさいなー、と思いつつ、横にいたカミさんに大吉だった旨を伝えると、それを聞いたその若者が「大吉っすね!」と満面の笑みで話しかけてきた。
やかましいw
「これ大吉ばっかりなんじゃないの?」とひねくれた返事をしたら、今度はカミさんが、「あたしゃ小吉だったよ。。。」と一言。
なんだい、右も左も。。。
外に出たら、雨が止んでいた。その直後、向こうの方で歓声が上がるのが聞こえた。ご来光でも見えたか、と声のする方向を見る。
そこに見えたのはご来光ではなかったが、雲の切れ間から麓に広がる景色を見晴らすことが出来た。
昨晩の暴風で空気が澄んだのか、目の前に広がる駿河湾や美保の松原、伊豆半島はもとより、三浦半島、房総半島、遠くは大島、利島、新島、神津島辺りまで見通すことが出来た。
これは絶景。
この変化に富んだ景色が楽しめるのは静岡県側の登山道ならでは。
富士宮口の登山道を登山者が続々と登ってくるのもみえた。
このページで通ったルートのGPSログ
さて、ぼちぼち剣ヶ峰を目指してみよう。
暫くは平坦な道を歩く。
雲の切れ間から、進路左手に駿河の遠景、右手に荒々しく口をあけている火口が見える。その間を進んでいく登山道。あまり端っこを歩きたくない場所であるが、これまで以上にダイナミックな風景に息をのむ。
富士山の山頂火口は大内院と呼ばれ、その深さは237mもある。
大内院は禁足の地とされ、人の立ち入りは不可ということだが、ネットなどを検索すると、冬にここでスキーをする罰当たりな命知らずもいるらしい。
進行方向に急な斜面が見えてきた。ここも宝永火口の縁と同様、馬の背と呼ばれる場所だ。
火口縁なので九十九折にすることができず、一直線の上り坂となっている。
これを登るのかと思わず怯んでしまったが、この坂を登りきると、ついに剣ヶ峰山頂だ。
ここまで来たら行くしかない。日本の最高所を踏まずに帰れるかー。
しかし、平地でも息を切らしてしまうような勾配、5m進んでは小休止を繰り返すような登り方で、一歩ずつ着実に進む。
カミさんは例によってハンミョウモードになっている。少しはいたわってくれw
一足先に坂を制覇して、測候所跡の敷地の前で休んでいるのが見えた。
ついに三度目にして日本で一番高い場所を制覇!感無量である。
この場所は、かつて富士山測候所のあった場所で、ここでレーダーを使った観測が行われていた。
以前は麓からもレーダードームの丸い屋根を見ることが出来たが、レーダー観測は1999年に役割を終え、さらに2004年には有人での観測も終了した。
今は無人で一部の観測のみが継続されており、特徴的だったドームは撤去されて麓の道の駅「富士吉田」に併設されている富士レーダードーム館で保存されている。
ちなみにこのレーダー、NHKのプロジェクトXによれば、設置に並々ならぬ苦労があったそうだ。
このレーダーが設置されたことにより、台風の進路予測などの精度が格段に向上して、日本の気象観測の発展に絶大な貢献をしたということだ。
雲が次から次へと流れてきて、相変わらず見通しが悪い。雨は時折ぱらつくが、風がそれほどでもないのが救い。そんな中登山客が次々とやってきては、写真を撮ったり撮って貰ったりしている。
写真撮影を終えたら、更にお鉢めぐりに進むかこのまま戻るかになるが、今日は戻っていく人が殆ど。
自分はどうしようか少し考えた。カミさんは、お鉢めぐりするなら行くよ、という態度だったが、だいぶ楽になったとはいえ、まだ本調子ではないので、結局、今日はここで引きかえす判断をした。
ここまで歩いてきた道は、ほぼ火山灰に覆われた道だったので、帰りは楽だろうと思っていたのだが、重力に任せて軽快なステップを踏むと、すぐ息が弾んでしまうので、テンポキープをしながらの下山を強いられた。ブレーキを掛けながら進むのは案外疲れる。
再び富士宮口へと戻り、頂上富士館を一瞥して御殿場口へ進む。
浅間神社の周囲でカップめんを食べている人たちがいて、辺りにダシのいい香りが漂う。
このカップめんは、山頂の山小屋で800円で売られている高級品である、多分。だが、山小屋の最高級1000円ブレックファストよりもはるかにおいしそうである。
次回登ることがあったら、食事なしにして食欲があったらカップ麺を食べればいいような気がした。