富士山リベンジ【5】(2013/08/23~08/24)


登山開始からここまで至って快調に登ってきたのに、山小屋に入った途端、具合が悪くなり始めた。そんなことあるのだろうか?体調維持に気を付ければ回避できると確信したばかりなだけに、この状況に戸惑ってしまった。

高山病がどんな感じかというと、ざっくりいうと頭痛と車酔いに同時に襲われたような感じと言えば伝わるだろうか。頭が痛くて気持ちが悪いのだ。体を少しでも動かすと胃の辺りが締め付けられるような感じになり吐き気を催すので、テーブルに突っ伏したきり身動きが取れない。カミさんはそんな自分にまだ気づいていないようだ。

山小屋のスタッフが「受付を開始しますので、ここに並んでください。」と言っているのが聞こえたが、頭を持ち上げることすらできない状態で、並ぶことなど到底無理。

隣でレインコートを脱いでいたカミさんに「来た、急に来た。。。」と、吐き気をこらえながら、体の変調を訴える。チェックインの代行を頼んだ。

数分後、チェックインを済ませたカミさんが戻ってきて、部屋への移動を促される。が、歩いて数歩の部屋の場所まで動くことすらままならない。これまでも片頭痛に悩まされることは度々あったが、ここまでグロッキーになるのは初めてだ。そのくらい具合が悪い。。。

それでもここで悶々としているより部屋で横になった方が楽になれそうなので、根気を振り絞って立ち上がる。足に力が入らない。力が入らないからやたらと重く感じる。

どうにか部屋まで行くと、すでにチェックインを済ませた人たちが、自分たちの寝床の上でめいめい荷物を降ろしている。

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自分らの場所は、入口を入ってすぐのところの二列。前回の山小屋とは違い、ちゃんと一人に一式の布団があった。隣の人と肩を寄せ合って眠らずに済むのは助かる。いかんせん具合が悪いので、最悪の事態になったら顰蹙どころの騒ぎではないだろう。山小屋の外につまみ出されるかもしれない。。。

部屋の壁際なので、周りをあまり気にせずに済むのもうれしい。
ただ、布団の足の部分が部屋の入口の通路にかかるような格好になっているので、足を踏まれないかが心配。。。

とはいえ、その辺は最早どうでもよく、荷物の片づけもそこそこに布団にもぐりこんで、胎児のように丸まって横たわった。布団の中は冷たくて何となく湿っている。自分の体も冷えているので不快なことこの上ない。敷物の上で寝られるだけマシと考えなければならないのか。。。

とはいえ、その辺も最早どうでもよくて、とにかく、頭痛を抑えるため、目を瞑って呼吸を整える。いつもの片頭痛はそうやって2時間くらい横たわっていれば大抵落ち着くが、今回はそれで治ってくれるだろうか。。。
ふと両手の指先が痺れて感覚がないことに気付いて焦る。これは経験がない。体が冷えているせいなら良いのだが。とにかく、まずは5時の夕食まで小一時間休んでどうにか回復させよう。

布団の中で悶々としていたら少し眠っていたようで、カミさんの声で目が覚める。

「夕食の時間だけど起きれる?カレーだってよ。」

カレーか。良いね。良いけど体調は全く回復していなかった。とても起きられない。完全に弱気になっている。
カレーと聞いたら小躍りするくらいの好物なのだが、今は多分体が受け付けてくれないだろう。
とはいえ、一食1000円のカレーである。もう手配してしまっているので、食べなければ1000円どぶに捨てることになる。そんなもったいないことをしてよいのか、と心が逡巡する。。。

結果、ちょっと無理かな。。。と返事した。

「それなら夕食じゃなくて朝食に変えてもらおうか?」


そんなことできるの?そりゃ渡りに船だ。過去の経験上、朝まで寝てれば大抵治るので、朝食なら美味しくいただくことが出来るだろう。ただ、それだとカミさんが夕食抜きになってしまう。カミさんだけでも食べたら?と言うと、カミさんもあまり食欲がないらしく、それほど食べたい気分になっていないそうだ。

腹が減ったら持ってきたお菓子とかをつまむから大丈夫、ということだったので、その案採用。スタッフに相談して、無事変更して貰えた、と言って戻ってきた。

夕食問題も無事解決し、再び布団で丸まってウトウト。どうにも落ち着いて眠れない。熟睡できないので、物音で目が覚める。体調はまだ戻ってない。寝返りを打ってもう一度ウトウトして、誰かに足を蹴られて目が覚める。。。みたいなのを繰り返していたら、次に目が覚めた時には消灯されていた。


2013/08/24

カミさんが隣でリュックをガサゴソと探っている音が聞こえる。お腹空いたの?と聞くと、

「まだ1時だって。。。」


と少し退屈そうに言う。1時か。かれこれ8時間ほど経っているが、体の調子が一向に良くならない。
建物に打ち付ける突風が雨戸をドンドン叩いている音が聞こえる。外はだいぶ荒れているようだ。

「天気悪いね、明日下山できるかね?」

「あたしもそれが心配だよ。」

このフラフラな状態で、荒れた天気の中を自分の足で下山することなど考えただけでゾッとする。ブルドーザーで下山する羽目になるのかな。だとしたらいくらかかるのかな。。。弱気になっているのでネガティブなことしか考えられない。考えれば考えるほどに不安が募る。

一言二言カミさんと会話して、再び目を瞑る。ウトウトして、物音で目が覚め、寝返りを打ってウトウトして、イヤな夢にうなされて目が覚め、またウトウトして、足を蹴られてまた目が覚めて、ウトウトして、風が建物を揺さぶる音でまた目が覚めて、でも相変わらず心拍数が下がらず頭痛も治らず、困ったなー、と思いつつまたウトウトして。。。みたいなことを延々と繰り返していた。

それでもいつの間にか少し眠っていたらしく、

「きしょうじこくになりました!」


というスタッフの声で目を覚ます。それと同時に電気が点いた。ということは4時になったのか。
全然治ってない。どうしよう。。。

昨晩ダウンしたのが5時ごろである。つまり、11時間ほど経過しているのだが、全然寝た気がしない。
高山病は下山しないと治らないって本当なんだなぁ、と変な感心をする。

とにかく体を動かしたくない。下山しなければ治らないとはいえ、出来ればまだ寝転がっていたい。でもそういうわけにも行かないので、気持ちを切り替える。
下山するまで気張れば、そのあとはいくらでもゆっくりできる。そう考えて気合で起き上がった。

幸いなことに、昨夜自分たちを不安にさせた山小屋を叩きつけていた暴風は治まったようだ。気がかりなことが一つ減った。この分ならご来光を拝んで下山できるかな?と考えるくらいには前向きになった。

荷物をまとめて休憩所へ移動。程なく朝食の時間になった。
頑張って移動してきたが、一度腰かけたら立ち上がれない。カミさんに食事を取りに行ってもらった。

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で、これが朝食。これで全部だ。
半ば思考停止している脳みそが、にわかにそばだった。まじかよー。
カメラもそんな気持ちを察してピンボケだw

ご飯にしば漬けの小袋とふりかけと海苔。あとスープ。カミさんは憮然とした表情でそれらを胃袋に収めていく。

いくら富士山頂での経営に何かとコストがかかるとは言っても、これで1000円はあんまりじゃないかと思った。コスト的にどうにもならないのなら、おかずの品数は我慢するが、もう少しおいしそうに見せる工夫くらいしてもいい気が。。。
これなら800円のカップラーメンの方がよっぽど満足できそうだ。

ただ、心はそんな不平不満を叫ぶものの、体の方はこれすら受け付けてくれない。とはいえ昨日の昼のおにぎり以来何も食べていなので、これを食べなければ下山中にスタミナ切れしそうだ。

どうにか少しでも食べようと思い、ご飯をスープに落として啜ろうとしたが、少量の飯すら喉を通っていかない。。。結局スープはどうにか飲めたが、ご飯、おかずは殆ど手が付けられなかった。

ああ、1000円。。。
カミさんの予言とおりだ。次来ることがあったら素泊まり一択だな。

目の前にある食べ物に手を付けない自分を見て不憫に思ったのか、カミさんが「これ飲みな」と差し出してくれたのがアミノバイタルの粉末。そういえば出発前の準備の時に、これはいい感じに体力が回復する魔法のアイテムだ、って話してたことを思い出しつつ、藁にも縋る思いで流し込む。
水物は飲めるので、ポカリの粉末かなんかを持ってくるのもいいかもしれない。

周りの人たちはあらかた食事を済ませ、出発の準備に取り掛かっているが、まだ外には出られないそうだ。彼らから漏れ聞こえてくる会話では、天気が回復していないので、ご来光は見えないらしい。とぼとぼ下山するだけか。。。

ほどなくチェックアウト時刻が過ぎ、山小屋タイムになる。入口の引き戸が開いて、外で開店を心待ちにしていた登山客がどっとなだれ込んできた。
Tシャツにハーフパンツ姿で登山してきた外人の若者が、部屋に入るなり空いているベンチに腰掛けてガクガクと震えている。何やってるんだ。

富士山の山頂は真夏でも夜中は気温が0度前後まで下がる。更に風速が1m増すごとに体感温度は1度下がる。
昨晩のあの暴風なら10m以上で吹き荒れていた筈だ。つまり彼らは北海道の真冬にも匹敵するような寒さと猛烈な暴風の中、薄着で夜通し登ってきたわけだ。よく引き返さずに登ってきたものだと尊敬すると同時に、山登りナメてるのか?と窘めてやりたくなった。

最初に入ってきた外人がやたらと震えているのを見て不憫に思ったカミさんが、持参した使い捨てカイロを提供しようと思ったらしい。が、続々と外人がなだれ込んできて、みな一様に震えているのを見て、数が足りないと結局配るのはやめたそうだ。

カミさんがトイレに行って暫くして戻って来ると、相変わらず雲が出ていて雨も降っていると教えてくれた。とはいえ、もうチェックアウトの時間は過ぎている。次から次へと登山客が入って来るので、いつまでもここにいる訳にもいかない。

覚悟を決めて緩慢な動作で立ち上がり、鴨居に干してあったレインコートをノロクサと着込んで出発。

Posted by gen_charly