[Inst-07] MOON JJ-5-210M 5弦ベース

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高校生の頃にT-SQUAREを聞き始めたことがきっかけでベースを弾き始めた、という話はTender4弦ベースの項で紹介した。
それからあれこれフュージョンの曲を貪り聞くようになり、コピーしてみたいと思う曲もだんだん増えて行ったのだが、フュージョンのベーシスト界隈では、比較的早期から多弦ベースにアプローチした人が多く、それらの曲をコピーしようとすると手元の4弦ベースでは再現が難しくなる。

ベースという楽器は一般に4弦のものが主流である。多弦ベースと言われているものはもっぱら5弦や6弦という仕様になるのだが、これは5弦の場合低い方に1本、6弦だと低い方と高い方にそれぞれ1本ずつ弦が増える構成になっている。

ベースのチューニングはギターと異なり全て5度ずつ上がるチューニングとなっている。即ち4弦がE-A-D-G、5弦なら4度低いB-E-A-D-G、6弦なら5弦の構成にプラスして高い方にCの音が加わる。即ち、6弦ベースの1弦の音は、ハイポジションは別として殆どは4弦や5弦ベースの1弦5フレット以降で代用できる。

だが、5弦ベースの5弦4フレット以下の音は4弦ベースでは再現できない。まぁ、オクターブ上の音を出せばよいと言えばよいのだが、ズーンと響く重低音は5弦ベースならではで、自分もその音が欲しいとずっと思っていた。とはいえ、当時はまだ多弦ベースは種類が少なく、あっても数が出ていないので高価な楽器だった。もちろん入門用なんて売られていない。だから最低でも15万くらいから、という高根の花だった。

学生の自分にとってそんな値段の楽器が買える訳もなく、親にねだって買ってもらうような物でもなかったので、楽器屋でも指をくわえて眺めるだけだったのだが、高校を卒業して自分で稼げるようになったら絶対に買おうと思っていた。

そうして社会人になった自分は早速5弦ベースを買いに行った。地元の楽器屋では5弦ベースなんて売られていなかったのでお茶ノ水まで遠征した。流石日本を代表する楽器街だけあって、5弦ベースだけでも多種多様なモデルが販売されている。とはいえ、自分はまだ楽器のメーカーについてほとんど知らず、フェンダーかT-SQUAREの須藤氏が使っているMOONくらいしか知らなかった。なので、最初からMOONの銘柄指定で買うつもりでいた。

MOONの5弦はいくつかの店で売られていた。いずれも16~23万くらいの範囲だったが、その値段の違いがボディの材質やパーツの違いによるものだとは知らなかったので、価格と見た目で選んだ。

須藤氏の所持するものと同じ楽器を購入(したつもりだったが、形が一緒なだけで中身の違いまでは知らなかった)するわけだが、色まで同じ物にするのはミーハーすぎて流石に気恥ずかしかったので、それ以外の色から選ぼうと思っていた。これまでも黒いベースだったのでまた黒がいいかな、と考えていたのだが、店員からはクリア塗装の物を勧められた。木目が出ている楽器ってどうなのかな、と最初は思ったが、手に取って見ているうちになんだか気に入ってしまったので、結局それを購入することにした。21万、もちろんローンで購入である。

そうして我が家にやってきたのが、このJJ-5というモデルだった。ついに憧れの5弦ベースを手に入れたあの日の高揚感はいまだに忘れられない。

ボディはメイプル、指板はエボニーだったかな。サーキットとピックアップはMOONオリジナルのBlackbirdというものが付いていた。始めのうちは憧れのLow-Bの音が出せるというだけで舞い上がっていたのだが、それから少ししてバンドに加入することになり、スタジオでみんなとセッションしていたら違和感を感じた。どうにもセッティングが決まらないのだ。

トレブルを上げるとアンサンブルに埋もれて自分の出音がよく聞こえなくなってしまい、かと言ってハイを上げるとゴリゴリとした耳障りな音になる。その丁度良い所がなかなか見つけられないままステージに上がって録音を聞いてなんだこれ、みたいなことが頻発した。

最初はその理由がよく分からなかったのだが、少しして雑誌で須藤氏の楽器紹介を見た時に同じ楽器なのに、中のサーキットが異なっていることを知った。確かバルトリーニのXTCTを使っていたのだったかな。それと比べるとBlackbirdはかなりドンシャリ感の強いセッティングのサーキットであるらしい。とはいえ、それも自分がちゃんと使いこなせていないせいだろう、と思っていた。

そんな折、当時付き合っていた人(彼女もベーシスト)が、アトリエZのセミオーダーベースを作ってもらったというので、スタジオに持って行って弾かせてもらった。

その音はJJ-5とは全く異なり、程よくバンドアンサンブルに馴染みつつ、ちゃんと存在感のある音色が一発で決まった。その楽器に搭載されていたのがXTCTだった。サーキットが変わるだけでこんなに音の印象が変わるものかと、それはもう衝撃的だった。

この一件があって自分もアトリエZの楽器が欲しいと思うようになったのだが、アトリエZは基本的にセミオーダーなのでJJ-5より更に高額でとても気軽に買えるものではない。なので、引き続きJJ-5を愛着を持って使い続けていたのだが、ある時彼女からそのアトリエZを買わないか?と相談された。

理由は様々あるが一番は楽器が重すぎてどこへも持っていけない、というのだ。確かにそれでは宝の持ち腐れである。いらないのなら欲しい!とすぐに立候補し、その楽器を手に入れることになった。

それからというもの、このJJ-5の出番はめっきり少なくなった。ぼちぼち売りに出そうかな、と思っていた時に5弦ベースを探している人がいる、という情報を聞きつけ、その人に売却してしまったので既に手元には残っていない。

Posted by gen_charly